テスラを黒字化させたCFO退任

テスラのCFOであるザッカリー・カークホーン氏が退任するという発表がなされました。

そして、テスラの株価も連動して下がっています。

通常、CFOが退任するというのは大きなニュースではありません。

※CFOとは
最高財務責任者(Chief Financial Officer)の意味

では何故、今回大きく報じられているのか?

株式市場の反応を見ると、同氏のテスラにおける功績がいかに大きかったかがわかります。

実際、同氏は普通のCFOではありません。

ザッカリー・カークホーン氏の在任中、テスラは2019年に黒字化を果たしています。

また、予定よりも早く約100億ドルの負債を返済するなど、

「儲かる会社」

へと転じています。

財務と聞くと「経理の人」というイメージがあります。

が、CFOは通常の経理の業務範囲を大きく超え、会社の戦略に従い財務計画を立て、

「どうやってお金を調達し、どこに投資し、どれくらいの利益を上げるか」

という計画を立て、それを実行してゆくポジションです。

そして現代の自動車業界は以前とは異なり、

「投資と回収」

が非常に重要となっています。

というのも、電動化や高度なエレクトロニクス化が進むほか、製造方法や素材についても、

「進化のスピードがとてつもなく速い」

からです。

なので、適切な技術に投資を行わないと業界の発展速度や市場の嗜好変化について行けなくなります。

そうなるの、無駄な投資を行ってしまうことにも繋がります。

要は、

・成長機会を逃す
・収益を圧迫する

ということにほかなりません。

さらに、それらのための投資に要する金額も以前とは桁違いとなっています。

一歩間違えば会社が傾くことも珍しくはなく、たとえばフォルクスワーゲンのように、

・電動化一本
・中国市場重視

という戦略に基づいて、電動化と中国市場に資金を集中させたものの、

・思ったようにEVが売れない
・中国市場では現地自動車メーカーの台頭によって存在感を失ってしまう

という事態に陥っています。

これはある意味で、

「財務上のリスク管理を失敗してしまった」

例だと言えると考えます。

逆の例がBMWです。

同社は電動化と内燃機関にバランスよく投資しています。

また、自社の強みが生きる分野において、そして他社と競合しない製品群へと投資することで企業価値を向上させてもいます。

こういった好例もあるので、いかに

「投資と回収」

が重要であるか。

また、それを司るCFOの役割が重要であるかがわかります。

ポルシェもBMW同様に投資のバランスが良い企業です。

・電動化
・モータースポーツ
・911ブランドの拡大戦略
・合成燃料(Eフューエル)

といったところへ資本を投下しています。

この判断を行っているのがルッツ・メシュケ氏だとされています。

・株主向けの決算発表
・戦略の説明

といった場において、ポルシェCEOのオリバー・ブルーメ氏よりも発言時間が長い場合もあり、事実上の「影のボス」的存在といった印象です。

一般的にCFOは、

・CEO
・COO(Chief Operating Officer=最高執行責任者)

に次ぐナンバー3だと認識されています。

ただし、現代の自動車メーカーにおいてはナンバー2的ポジションだと判断してよいかもしれせん。

そして、その重要性が年々高まっているものと推測します。

話をテスラに戻すと、ザッカリー・カークホーン氏の退任理由は明かされておらず、すでに(8月4日に)退任済みです。

ただし、年末まではテスラにとどまって様々な整理や調整を行うとアナウンスされてもいます。

ということは、健康上の理由や「内輪もめ」ではないのかなと推測します。

なお、テスラは同氏の退任にあわせ以下のようにコメントしています。


ザッカリー・カークホーン氏はテスラに13年間在籍し、この4年間はコインマスター兼最高財務責任者を務めた。

カークホーン氏が在職中、テスラは飛躍的な拡大と成長を遂げました。

テスラはカークホーン氏の多大な貢献に感謝しています。

一方のザッカリー・カークホーン氏からのコメントは以下の通り。


多くの人が不可能だと考えていたことを成し遂げてきたテスラの有能で情熱的、そして勤勉な従業員に感謝したい。

また、多くの人々を鼓舞してきたイーロン・マスクのリーダーシップと楽観主義にも感謝したい。

このザッカリー・カークホーン氏はテスラの次期CEOに就任すると言われた人物でもあるそうな。

ウォール街では同氏とイーロン・マスクCEOとの関係を、アップルにおけるティム・クックCEOと故スティーブ・ジョブズ氏の関係になぞらえたこともあるそう。

・イーロン・マスク氏
・故スティーブ・ジョブズ氏
→リスクテイカー

・ザッカリー・カークホーン氏
・ティム・クックCEO
→慎重なアプローチを採用する

上記の様な感じで、それぞれの会社における均衡が実現されていたと見られていた模様。

また、ザッカリー・カークホーン氏の退任時期はテスラにとって、

「厳しい時」

に追い打ちをかけるのは間違いありません。

というのも中国EVメーカーとの競争が激化しているから。

理由は以下の通り。

・EV需要希薄化への対応のために値下げを行って利益が圧迫されている

・サイバートラックの開発と生産準備が営業コストを押し上げてテスラの利益率に影響を及ぼしている時期

・欧米の既存自動車メーカーの追い上げ

なお、ザッカリー・カークホーン氏の後任もあわせて発表されています。

2019年からテスラの経理チーフを務めてきたヴァイバフ・タネジャ氏がCFOに就任することになるのだそう。
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